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資料室  平成20年度 講演会 (2008.6.11)

アクセシブルデザイン
〜高齢者・障害のある人々に配慮した、より多くの人が使いやすいデザイン手法とその規格化〜

産業技術総合研究所 人間福祉医工学研究部門 上席研究員
工学博士 佐川 賢 氏

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産業技術総合研究所の紹介

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1/23】 産業技術総合研究所では、人間福祉医工学研究部門において、人間工学、健康・福祉工学、医工学の3分野の研究が進められており、このうち人間工学分野で高齢者・障害者の特性に関する研究が行われている。この研究は、産総研にある工業標準部と連携して、JIS化やISO化などの標準化を目指している。

アクセシブルデザイン

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2/23】 アクセシブルデザインとは、製品や環境に様々な工夫を施すことによって、これまで利用できなかった人を含め、より多くの人々が利用できるようにするためのデザイン。たとえば、薬の瓶の文字を大きくすれば高齢者でも読めるようになり、さらに触覚記号や点字で情報を付加することにより視覚障害者でもわかるようになる。このようなデザインを言う。
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3/23】 高齢者や障害のある人の不便さを調べてみると、特に高齢者の場合は、例えば、きつく締められた瓶の蓋が開かない、家電製品の取り扱い説明が分からない、高い棚にある台所用品に手が届かない、等々の不便さがある。
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4/23】 一方、目の不自由な人の場合の不便さを調べてみると、例えばスーパーマーケットの調味料の棚などでは、同じ大きさ・形の容器が並んでいて中身の識別ができない、クレジットカードの形・サイズがみな同じでどれを使うべきか識別できない、葉書、封筒なども定型なので、郵便物の識別ができない、等々の不便さがある。
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5/23】 アクセシブルデザインでは、ユーザーの不便さを解消するため、製品や環境の設計において一工夫することにより、製品や環境のユーザー層が成人・青年から高齢者層、さらには障害のある人まで広がっていくことを期待している。少しずつ、より多くのユーザーを目指して行くことが、アクセシブルデザインの考え方。
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6/23】 アクセシブルデザインはISOなどの標準化分野で普及してきた。ISO.IECガイド71は2001年に出版されたアクセシブルデザインのガイドライン。現在ではCENなどの地域標準、また日本、韓国、スペイン、イタリアなどの国内規格として採用されている。アクセシブルデザインの動きの原動力となっている。
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7/23】 ISO/IECガイド71には高齢者・障害者に対して配慮すべき項目が20個以上具体的に示されている。たとえば文字の大きさや書体などは高齢者や弱視者の方でも読みやすいように配慮することが必要。さまざまな課題があるが、これらの中には人間工学的な検討を要する課題があり、こうしたものに対してはさらに技術的なガイドが必要である。現在ISOでは、ISO TR22411という技術ガイド集が作られつつある。
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8/23】 ガイド71におけるデザイン要素の一つである代替様式とは、視覚情報を他の触覚情報や他の感覚情報で補おうとするデザインの考え方で、アクセシブルデザインでは重要な概念。例として、プリペードカードの右端に異なる形の切り欠きを入れ、視覚障害者にカードの識別と挿入方向を認識させる。視覚を触覚で代替するデザイン。また、同様にリンスとシャンプーを区別するため、シャンプー容器の側面に触覚のマークを入れるデザインなどが代替様式。これらはすでにJISに取り入れられている。
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9/23】 製品表示の方法に係るアクセシブルデザインとしては、これまでJISに3件の規格が制定されている。JIS S0031(2004)はコントラスト、JIS S0032(2003)は文字サイズ、JIS S0033(2006)は色の組み合わせに関するJISである。
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10/23(クリックで拡大)】 明るさやコントラストの感覚には加齢変化があり、同じものでも年齢によって見え方が変わる。視覚の分光感度を高齢者と若年者で比較して見ると青から紫色の波長領域では高齢者の感度が低下している。このため、黒地に青で書かれた表示物などは、高齢者には青が黒ずんでしまうので見づらい。眼球内にあるレンズが年齢とともに黄色に変色し、青の光を吸収してしまうために起こる。
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11/23(クリックで拡大)】 青の光の見えにくさを定量的に表したものが年代別相対輝度のJIS.。年齢別に調べた視覚の感度曲線から、例えば茶の背景の上に描かれた青の文字を見た場合の視覚的コントラストを年代別の感度曲線を用いて計算する。すると、20歳代の観測者では34%と高いコントラストとなるが、70歳代の観測者では6%と非常に低くなる。すなわち、このサインは高齢者に見づらいことがわかる。このJISでは、青に限らず種々の色を用いる場合のコントラストをあらかじめ知ることができる。
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12/23】 読みやすい文字サイズの設計もアクセシブルデザインとして重要。交通標識や地図、薬等の瓶の表示ラベル、日用品の説明書、注意書きなど、見やすい文字で描くことが要求される。
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13/23】 読みやすい文字サイズは視力に関連する。視力が良ければ小さな文字で良いし、悪ければ大きくしなければならない。問題は、視力は見る距離(視距離)と明るさ(輝度レベル)で変化すること。このデータベースが重要である。視力と視距離の関係では、年齢とともに近い距離(約1m以内)の視力が低下する。年を取ると誰でも経験する。一方、視力と輝度レベルの関係では、どの年齢でも暗くなると視力は一様に低下する。この影響も大きい。
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14/23(クリックで拡大)】 視力が変化する様々な観測条件で、実際の文字がどのくらいのサイズまで読めるかを計測した。約50名くらいの若年者と高齢者で、ひらがなや漢字を50cmと2m、明るいところ(100cd/m2)と暗いところ(0.5 cd/m2)で調べた結果、高齢者は近いところで、また両者とも暗いところでは大きな文字サイズが、必要であることがわかり、年齢、視距離、明るさと最少可読文字サイズの定量的関係が得られた。
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15/23(クリックで拡大)】 その結果を最小可読文字サイズ推定法としてJIS S0032に制定した。このJISは年齢、視距離、輝度が分かるとその条件の視力が分かり、その視力から読むことのできる最小の文字サイズが分かるというもの。簡単な一次式で計算できる。実際に、68歳の人が、50cmの距離で10cd/m2というやや暗い条件で文字を読む場合を計算してみると、明朝タイプの数字で16.6ポイントという結果が得られる。ゴシックタイプでは係数が変わるので、13.9ポイントとなり、小さくても読める。すなわちゴシックタイプが読みやすいという結果が出る。
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16/23】 色の組み合わせも重要なデザイン要素である。地下鉄の路線図などは何本も色分けしないといけない。どの色を使うかは悩ましい問題で、今まで科学的な方法はなかった。
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17/23】 類似色領域という概念を用いると色の組み合わせは容易になる。類似色領域とは似た色どうしのグループ。マンセル表色系の等明度平面で考えると、例えば赤や緑は図に示すような領域を形成する。異なるグループから選んだ色を用いて、色の組み合わせを作ると識別しやすい組み合わせとなる、というのが基本的考え。どの色がどのような範囲でグループを作るかという、データが必要となる。
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18/23】 JISに記載されている基本色13色に対して、高齢者と若年者に対して類似色領域を実験的に求めたグラフ。基本13色のうち、白と黒を除く基本色に対してその類似色領域を示した。点線は若年者のデータであり、どの色でも高齢者に比べ広くなっている。このデータが色の組み合わせのべースとなる。
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19/23】 基本色領域による色の組み合わせの一例を示す。地下鉄の5つ路線の色分けをする場合、たとえば重ならない基本色領域として、橙、黄緑、青緑、青紫、赤紫、を例としてあげた。それぞれの領域から一色ずつ選んで5本の路線を色分けすれば、識別しやすい色の組み合わせとなる。領域内であれば、どの色を選んでも良いので組み合わせは無限にできるが、どれも同様な識別性を有する。色の数が増えても同じ手法が適用できる。汎用性が高い。
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20/23】 色の組み合わせを、もう少し分かりやすく色名だけの表にして組み合わせたもの。混同しやすい色(△)、識別しやすい色(○)、非常に識別しやすい色の組み合わせ(◎)がこの表からわかる。それぞれの色の領域はデータベース化されており(スライド18参照)、それらの領域から任意の色を選んで組み合わせを作ればよい。
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21/23】 高齢者だけでなく、障害者の人間特性データも重要。たとえば視覚障害者の例としては、全盲の方に対する触覚利用や、ロービジョン(弱視)の方へ文字やコントラストの配慮を示す。この時、触覚の特性データやロービジョンのコントラスト特性のデータが必要である。ロービジョンのコントラスト感度を計測してみると、全体的にかなり感度が低下し、特に高周波成分(細かい縞)の感度低下が著しい。細かい文字や図形は避けるべきであることがわかる。
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22/23(クリックで拡大)】 アクセシブルデザインは、産業界においてこれからのモノづくりの視点の一つとして浸透して行くことになろう。共用品推進機構の2005年の調査ではアクセシブルデザイン製品の市場規模は約2兆9000億円と出ている。年々増加しているが、今後さらに伸びていくことが予想される。
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23/23(クリックで拡大)】 アクセシブルデザインの標準化はISO等の国際レベルで日本が中心となって推進している。TC159「人間工学」がその中心的役割。ここにアクセシブルデザインを推進するアドバイザリーグループが最近できた。既存のWG2やSC5/WG5のグループとともに、TC159以外のTCや、JTC1, IEC、国際的な障害者団体や高齢者団体との連携を保ちながら国際標準化を進めていく。

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